一昨日ネットで注文した、『現代ギリシア語辞典 第三版』が昨日配送されてきた。

書店、それも大きな書店の言語コーナーでは、現代ギリシャ語は「その他諸外国語」といった分類がされている。日本は、外国語学習と言えば、「英語」の国。とにかくそのマーケットの大きさたるや外国語教材市場の9割以上がそうなのではないかと思うほど。一方現代ギリシャ語のマーケットと言えば、年間数百万円にも満たないのではないかと思われる。ギリシャ語の潜在需要があるかといえば、アテネ・オリンピックも終わった今、ほとんどないというのが正しいかもしれない。学問としての古典ギリシャ語の需要は現代ギリシャ語に比べればコンスタントにあるだろうが、古典ギリシャ語と現代ギリシャ語はまったくの別物である。

さて、この『現代ギリシア語辞典』、編者の川原拓雄氏が一人で20年以上の時間をかけて編纂したもの。この辞典の存在を知ったのは、今は亡き辣腕編集者・安原顯の編集による『私の外国語上達法 (リテレール・ブックス)』(メタローグ 平成6年5月12日発行)を読んだときのことで、カヴァフィスなどの現代ギリシャ詩を翻訳する中井久夫氏が「おすすめの辞書」として紹介していた。「ただ一人の編者が貧しい思いをしながらまとめ上げた辞書」といった旨の紹介があったように記憶している。しかし、この辞典とにかく値段が高い。1992年の初版は¥13,650、2000年の第二版『新版 現代ギリシア語辞典』が¥14,700、そして、2004年7月に刊行された『現代ギリシア語辞典 第三版』は¥18,900。この値段の背景として、第一に挙げられるのが、現代ギリシャ語需要の低さ。価格が高くなるのもいたしかたない。しかも、この辞書の編者に対しては、その功績からそれなりの報酬があってもいいから安くしろとは言えない。

とはいえ、こういったマイナー言語の辞書がかように高いことにはやはりなにかおかしいなと思わざるを得ない。マイナーな国の言語学習は、その教材の高さからとっつきづらいものになり、その結果その国が(あるいはその言葉を話す人々が)、日本にとっていっそうマイナーな国になってしまう。『現代ギリシア語辞典』といった業績を公的機関が評価する(もちろん金銭的なものを含めて)ことはできないのだろうか? 世界経済におけるポジションどころか、文化の価値基準さえも見失いかけている日本にこういったことを望むのは厳しいかもしれない……。

こんな考えとは別に、言語の学習に対して多額のお金を払うことについては、これを肯定する考え方もある。NHKラジオ『ビジネス英会話』でおなじみだった杉田敏氏がこんなことを言っていた。「勉強をするためには犠牲を払わないといけない。犠牲とは何かというと、時間とお金」。お金にかこつけて日本という国の異文化理解の低さを嘆くよりも、自分で犠牲を払ってでも勉強を続けることのほうが建設的なようだ。

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4件
のどか制作室のComment

はじめまして。トラックバックありがとうございます。
読者の方の貴重なお話を聞くことができ、スタッフの一員として感激しています!
私もデザイナーという職業柄、高価な美術・デザイン関連の書籍を購入する機会が多く、レジに並ぶたびに「勉強のためには出費を惜しまず…」と、杉田敏氏の言葉のようなことを自分に(財布に)言い聞かせています。
英会話学校の広告で「国からの給付金が出ます」とのキャッチコピーを見たことがありますが、教科書を除く辞書などの教材においては、そういった国の補助的な話は聞いたことがありませんね…。
恥ずかしながら、このようなアプローチで辞書(書籍)のことを考えたことがなかったので非常に考えさせられました。装丁をする際にも、いろんなベクトルからその書物を分析し、少しでもデザインに反映していければなと思いました。
私の反省文のようなコメントになってしまいましたが、『現代ギリシア語辞典 第三版』を末永くご活用いただけると、装丁家としても非常にうれしいです。
長々と失礼しました。

コメント日時:2005/02/03 1:45 AM
xasimotoのComment

のどか制作室 さま
コメントありがとうございます。わたしのつたない文章が少しでもご参考になれば幸いです。
かくいうわたしも装丁にそれほどこだわったことはないのですが、『現代ギリシア語辞典 第三版』の装丁にはものすごく新鮮さを感じました。おかげさまで、滞りがちだった勉強のほうも心機一転、再スタートを切ることができたように思います。これからもいい本を世に出してください。

コメント日時:2005/02/06 8:02 PM
ゆみやのComment

はじめまして。
この辞書は、まずは初版を買っていたんですけど、第2版は高かったこともあって見おくりました。でも、第3版は完成版ということで、中身も第2版にくらべてもずいぶんふえているようだったので、去年の暮れに思いきって買いました。初版はワープロ印刷で、ギリシャ文字の活字にしてもちょっと見おとりする感じでしたけど、第3版は装丁も中身もよくなって見ばえもいいですね。値段はさらに高くなってますけど、まえの版にくらべていろいろよくなっているので、その比較では悪くないでしょう。それに、大学書林の古典ギリシャ語の辞書にくらべればずっと安いわけで……。

コメント日時:2005/04/30 1:14 AM
xasimotoのComment

ゆみや さま
コメントありがとうございます。
大学書林の古典ギリシャ語辞典は、たしかに高いですね。
『外国語上達法』(岩波新書)の千野栄一氏は、よい辞書の条件を7つぐらい挙げられていて、そのなかには「安いこと」というのもありましたが、良い辞書はそれなりに時間や費用がかかっているわけで、値段だけに目をつけてことさらあれこれ言われるのは、ちょっとどうかなと最近また感じ始めていたところです。
希英辞典ではなく、この辞書を使っているだけでも、辞書を引くにあたってかなりの時間の節約ができていると思います。その点だけでも、購入する価値はあると思っています。ギリシャ語楽しんでがんばっていきましょう。

コメント日時:2005/04/30 9:39 PM
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